大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 平成6年(わ)393号 判決

本籍

奈良市芝辻町一一番地

住所

奈良市柏木町三八三番地

土木工事業

森髙茂樹

昭和四年七月一〇日生

本籍

奈良市芝辻町一一番地

住所

奈良市柏木町三八三番地

会社役員

森髙玲子

昭和一七年七月四日生

右の者等に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大島忠郁並びに弁護人田中義雄及び同家藤信正出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人森髙茂樹を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に、被告人森髙玲子を懲役一〇月に処する。

この裁判確定の日から三年間、被告人森髙茂樹に対し懲役刑の執行を、被告人森髙玲子に対し右刑の執行をそれぞれ猶予する。

被告人森髙茂樹が右罰金を完納することができないときは、四〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人森髙茂樹は、奈良市柏木町三八三番地に居住し、同所において、「森髙組」の名称で土木工事業等を営むもの、被告人森髙玲子は、右「森髙組」の事業専従者であるが、被告人両名は、共謀のうえ、被告人森髙茂樹の所得税を免がれようと企て、

一  平成二年分の実際総所得金額が九五五三万一九三四円であったのにかかわらず、実際の所得金額に関係なく、ことさら過少な所得金額を記載した虚偽の所得税確定申告書を作成するなどの行為により、その所得金額のうち八〇五〇万五七〇七円を秘匿したうえ、平成三年三月一五日、奈良市登大路町八一番地奈良合同庁舎所在の所轄奈良税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一五〇二万六二二七円で、これに対する所得税額が三四三万〇八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成二年分の正規の所得税額四三一一万六五〇〇円と右申告税額との差額三九六八万五七〇〇円を免れ

二  平成三年分の実際総所得金額が二億五六八五万五七四九円であったのにかかわらず、前同様の行為により、その所得金額のうち二億三六二〇万八七二六円を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、前記奈良税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が二〇六四万七〇二三円で、これに対する所得税額が五六六万五六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額一億二三五六万三〇〇〇円と右申告税額との差額一億一七八九万七四〇〇円を免れ

三  平成四年分の実際総所得金額が三六三二万六七二七円であったのにかかわらず、前同様の行為により、その所得金額のうち一八〇八万〇二一一円を秘匿したうえ、平成五年三月一五日、前記奈良税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が一八二四万六五一六円で、これに対する所得税額が四七四万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額一三五〇万一〇〇〇円と右申告税額との差額八七五万六二〇〇円を免れたものである。

(各実際総所得金額の確定内容は別表1ないし3の各所得金額総括表の各借方差引修正金額・総所得金額欄の、同所得金額中の事業所得に関する各勘定科目の各当期増減金額及び差引修正金額は別表4ないし6の修正貸借対照表の各借方・貸方当期増減金額・差引修正金額欄の、税額計算については別表7ないし9の各ほ脱税額計算書の各実際額・所得税額合計欄の、ほ脱税額は同各計算書の各ほ脱額・差引所得税額欄の各記載のとおりであり、また、ほ脱所得の内訳明細は別紙ほ脱所得の内訳明細の記載のとおりである。)

(証拠の標目)

(括弧内の検番号は、証拠等関係カード記載の検察官請求の証拠番号を示す。)

判示全事実について

一  被告人両名の当公判廷における供述

一  被告人森髙茂樹の検察官に対する供述調書(検第73号)

一  被告人森髙玲子の検察官に対する各供述調書(検第66号、検第67号)

一  被告人森髙玲子の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第41号ないし検第45号、検第47号ないし検第65号)

一  被告人森髙茂樹の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第68号ないし検第72号)

一  渡部悌二の検察官に対する供述調書(検第11号)

一  渡部悌二の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第10号)

一  森髙美樹の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第12号)

一  河野紀夫の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第13号ないし検第15号)

一  河野多津子の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第16号、検第17号)

一  中村初男の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第18号)

一  竹中彪の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第19号)

一  荒木捷彦の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第20号)

一  大川原功の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第21号)

一  黒薮直樹の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第22号)

一  小西俊嗣の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第23号)

一  丹羽眞佐子の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第24号)

一  藤原節夫の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第25号)

一  南本義雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第26号)

一  清水信の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検第27号、検第28号)

一  小阪重治こと金秀湖の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第29号)

一  北山郁夫の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第30号)

一  亀田保子の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第31号)

一  森幸雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第32号)

一  中川七生海の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第33号)

一  池迫晴康の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第34号)

一  今西茂男の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第35号)

一  村川憲一郎の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第36号)

一  今村俊幸の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第37号)

一  米沢徳一の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第38号)

一  中北嘉雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第39号)

一  上田喜久の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第40号)

一  大蔵事務官作成の報告書(検第1号)

一  検察官大島忠郁、被告人両名並びに弁護人田中義雄及び同家藤信正共同作成の合意書面(検第8号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(検第9号)

判事一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第2号)

一  奈良税務署長作成の証明書(検第5号)

判事二の事実について

一  被告人森髙玲子の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第46号)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第3号)

一  奈良税務署長作成の証明書(検第6号)

判事三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第4号)

一  奈良税務署長作成の証明書(検第7号)

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為はいずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一項に該当するところ、各所定刑中、被告人森髙茂樹については懲役刑及び罰金の併科刑を選択し、被告人森髙玲子については懲役刑を選択し、かつ情状により右罰金刑については同法同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人森髙茂樹を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に、被告人森髙玲子を懲役一〇月にそれぞれ処し、懲役刑については、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間、被告人森髙茂樹に対し懲役刑の執行を、被告人森髙玲子に対し右刑の執行をそれぞれ猶予し、被告人森髙茂樹が右罰金を完納することができないときは、同法一八条により四〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

一  被告人両名には、次のとおり量刑に際し参酌すべき不利な事情がある。

1  本件は、三年分にわたり合計一億六六三三万九三〇〇円の所得税を免れた事案で、脱税額も少なからず、ほ脱率も高率で、平成二年分約九二%、同三年分約九五・四%、同四年分約六四・九%に達している。

2  申告納税制度をとる我が国にとっては、納税者の誠実な申告・納税が不可欠であるが、かかる巨額・高率な脱税に対し寛大すぎる量刑をもって処断するならば、国民の納税意欲を阻害し、申告納税制度に少なからぬ悪影響を及ぼす。

3  「森髙組」は帳簿を整備しておらず、本件各年度分の申告もいずれも実態に応じない恣意的なもので、不誠実なものであった。このような納税態度は、被告人森髙茂樹の税金など正直に払わなくともよいとの姿勢に基づいていた。

4  被告人両名は、他人名義で不動産・株式を購入し、預金や貸金庫借用をするなどしていたが、これらは脱税を目的としたと推認することができる。

二  一方、被告人両名には、次のとおり量刑に際し参酌すべき有利な事情もある。

1  被告人森髙茂樹は、当時体調を崩し、殆ど「森髙組」の業務に関与していなかった。

2  同業務のうち、重要な事項については被告人森髙茂樹の了解をとって行っていたが、一般の業務は被告人森髙玲子が実質的に行っていて、同森髙茂樹は詳細に通じていなかった。

3  被告人森髙茂樹は、今は暴力団と関係を絶っていて、古い前科しかなく、同森髙玲子には前科がない。

4  被告人両名には、所得をいくら減額するか、所得税をいくら免れるか、具体的な認識がなかった。

5  前記一2記載のような杜撰な申告であることを分かりながら、被告人両名の言った数字を若干加工して申告書に金額を記入するなど協力した顧問会計事務所があり、同事務所は是正するように助言しなかった。

6  被告人森髙茂樹は、既に本件各年度分について、修正申告をし、本件ほ脱税額のうち本税全額を納入し、延滞税、重加算税も一部は支払い済で、残りも、割賦支払をするため、手形を差し入れ、担保を提供しているので、完済が見込まれる。

7  本件の報道によるイメージの低下が避けられず、既に相応の社会的制裁をうけている。

8  本件の大蔵事務官の査察及び検察官の取調べ、さらに公判の審理を通じ一貫して犯行を自白し、改悛の情を示している。

三  右一記載の各事情を考慮すれば、被告人両名の刑責は軽くないが、右二記載の諸般の情状を鑑みると、本件は、その懲役刑の執行を猶予すべき事案であり、主文掲記の懲役刑及び罰金刑が相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川和幸)

所得金額総括表

所得金額総括表

所得金額総括表

修正貸借対照表

修正貸借対照表

修正貸借対照表

ほ脱税額計算書

ほ脱税額計算書

ほ脱税額計算書

別紙

ほ脱所得の内容明細

No.1

No.2

No.3

No.4

No.5

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例